フィンランドと聞いてまず思い浮かべるものは、ムーミンやサンタクロース、トナカイなどでしょうか。そのようなイメージと違わず、フィンランドは広大な森林を有する自然豊かな国です。ヨーロッパの北部に位置し、その国土は日本の9割程度の広さです。そこに東京都の人口の約4割にあたる550万人の人々が暮らしていることから、フィンランドの人口密度の低さが分かるでしょう。また首都ヘルシンキからさらに1時間ほど飛行機に乗れば、本物のサンタクロースが待ち受けるサンタクロース村へと行くことができます。
フィンランドではオーツ麦や小麦、じゃがいもなどが主食として食べられています。最もポピュラーなのはルイスレイパというライ麦パン。これは少し酸味があるため、ハパンレイパ(すっぱいパン)と呼ばれることもあります。そしてフィンランドでは1日に5回程度食事を摂ることが一般的。朝食、昼食、軽食、夕食、軽い夜食、というパターンがよく見受けられます。朝食や夜食はおかゆ(プーロ)を食べることが多いようです。オーツ麦で作ったものはカウラプーロ、ライ麦で作ったものはルイスプーロ、お米で作ったものはリーシプーロと呼び、時にはベリーを乗せて食べます。またフィンランド人はコーヒーが大好きですから、食事の合間に甘いお菓子をつまみながらコーヒータイムを楽しむこともよくあります。
ついつい手が伸びる?「ヤンソンさんの誘惑」
フィンランドの人気料理の一つに「ヤンソンさんの誘惑」と呼ばれるものがあります。これはアンチョビとじゃがいもを使ったグラタン料理で、どうして「ヤンソンさんの誘惑」と呼ばれるようになったのかはよく分かっていません。日本では「あるベジタリアンの宗教家が、あまりにもおいしそうな匂いに惹かれて我慢できずに食べてしまった」という由来が有名ですが、それも噂の域を出ないものです。ムーミン・シリーズを読んだことのある人ならば、この料理が出てきたことを覚えているかもしれません。フィンランドではスーパーのお惣菜売り場で売られているほど一般的な料理です。
「ヤンソンさんの誘惑」を作るために必要な材料はじゃがいも、玉ねぎ、アンチョビの缶詰、生クリーム、パン粉。作り方も材料を切ってグラタン皿に入れ、生クリームとアンチョビの汁をかけて、パン粉を散らしてオーブンで焼くだけというシンプルなものです。これらの材料は日本でも手に入りますから、ご家庭でも気軽に作ることができそうですね。
フィンランド家庭の味!シナモンロール
シナモンロールはフィンランドの家庭のおやつの定番です。家庭によって作り方が微妙に異なるので、味もそれぞれ違います。フィンランド人におすすめのシナモンロール店を尋ねると、いくつか答えてくれた後に「でもうちのママのシナモンロールが一番おいしいよ」と返ってくることもしばしば。映画「かもめ食堂」でもおふくろの味として描かれていました。
さて、シナモンロールといわれて思い浮かべるのは頂点がぐるぐると渦巻いたカップケーキのようなパンでしょう。しかしフィンランドのシナモンロールはクロワッサンを平たく潰したような形状で、渦巻は両サイドにあるというふうに見た目が違っています。初めて見た人はびっくりするかもしれません。このシナモンロールのことをフィンランド語で「korvapuusti(コルヴァプースティ)」といいます。ビンタされた耳という意味で、ムーミン・シリーズの料理本でも「往復ビンタ」という名称でシナモンロールが紹介されています。
フィンランドのシナモンロールにはカルダモンというスパイスが欠かせません。カルダモンは香りの王様ともいわれるスパイスで、カレー粉にも含まれています。フィンランドのパンやお菓子にはカルダモンが練り込まれていることが多く、クリスマスの時期には町がカルダモンの香りでいっぱいになるとも言われるほどです。
お祭りと甘いものをセットで楽しむ
フィンランドにはラスキアイネンというお祭りがあります。イースターの7週間前の日曜日と火曜日に行われるお祭りで、だいたい2月下旬~3月上旬に開催されます。簡単に訳すとそり滑り祭り。日曜日は大人も子どももそりで思い切り遊び、火曜日は学校の授業の代わりに外でそり遊びをする日となっています。たくさん遊んだ後はラスキアイスプッラという菓子パンを食べます。これはパンとパンの間にマンデルマッサ(アーモンドクリーム)、もしくはいちごジャムを挟んで食べる、シュークリームのような菓子パンです。マンデルマッサを挟むかいちごジャムを挟むかは人によって異なり、両者ともに「こっちが一番おいしいのに」と言い張ってやまないようです。このラスキアイネンのお祭りの際、栄養豊富なものを食べればその年は豊作になるという言い伝えがあります。また春の訪れを歓迎するという意味も持ち合わせています。ラスキアイスプッラは通称セムラとも呼ばれ、あの人気漫画「ONE PIECE」にも出てきて話題となりました。
また2月5日にはフィンランドの有名な詩人、ルードヴィーグ・ルーネベリの誕生日を祝ってルーネベリトゥルットゥというお菓子を食べます。ルーネベリトゥルットゥはカップケーキ状のお菓子で、ラズベリージャムと粉砂糖でデコレーションされています。このお菓子はルードヴィーグ・ルーネベリさんの大好物で、毎日食べるほどだったとも言われています。
お祝いの日の定番、サンドイッチケーキ
結婚式、お葬式、入学式、卒業式、誕生日などたくさんの人が集まる際に欠かせないのが、サンドイッチケーキです。フィンランド語ではvoileipäkakku(ヴォイレイパカック)といいます。ケーキと名が付いていますが、サンドイッチケーキは甘いデザートではありません。サンドイッチという名の通りパンで具材を挟んだもので、具となるのはお肉、お魚、野菜など。果物やジャムなどは登場しません。トマトやチーズ、きゅうりにレタス、ゆで卵、ホイップクリーム、マスタードなどで色とりどりに仕上げます。そのままでも見た目が美しいケーキですが、カットするとさまざまな具材が積み重なった断面が覗くので見ても食べても楽しいケーキとなっています。
このサンドイッチケーキは、スーパーやレストラン、カフェではお目にかかることができません。日本でいうおせち料理やオードブルのようなもので、事前にお店に予約するのが一般的なのです。
珍味?国民食?勇気が必要な食べ物
さて、おいしそうな料理をいろいろと紹介してきましたが、どこの国にもそこに住んでいる人にしか受け入れられない食べ物はあるものです。フィンランドではサルミアッキが有名でしょう。サルミアッキのキャンディは北欧諸国で当たり前のように食べられており、大人から子どもまで大人気のお菓子です。主成分は塩化アンモニウムとリコリス。塩化アンモニウムは食品添加物の一種で、リコリスは甘草というハーブの仲間です。リコリスは日本でも漢方薬として用いられていることがあります。サルミアッキのキャンディは「ゴムの味」と形容されます。苦味があり、消しゴムやタイヤを食べたような味がするそうです。フィンランド人はサルミアッキキャンディを砕いてウォッカに混ぜたり、アイスクリームやコーラの味付けに使ったりします。
また世界一臭い食べ物として有名なシュールストレミングはフィンランドでも売られています。「すっぱいニシン」という意味のhapansilakka(ハパンシラッカ)と呼ばれています。売り場の片隅にひっそりと置かれていることが多く、人気商品というわけではないようです。シュールストレミングはニシンを塩漬けにして発酵させたもの。魚を塩漬けにする保存方法は世界各地で見られます。例えば日本ではイカの塩辛が有名ですし、タイのナンプラー(魚醤)も魚を塩漬けにして作られた調味料です。十分な量の塩を使えば雑菌の繁殖を抑えることができ、魚を新鮮なまま保つことができます。しかしかつての北欧では塩が貴重品だったので、保存にあたって腐らないギリギリのラインまで塩を減らそうとしたのです。そうして薄い塩水に漬けられたニシンは腐らずに発酵していき、強烈な臭いを発するシュールストレミングが誕生しました。
家具や壁などに臭いが染み付いてしまうため、シュールストレミングは屋外で開封することが推奨されています。開封後はパンやチーズ、じゃがいもなどに乗せて一緒に食べましょう。意外と量が多いため、1人では完食できない可能性もあります。食べ残しを冷蔵庫に保管すると冷蔵庫が臭くなってしまいますので、大人数の集まるパーティのような場所で開封するのがおすすめです。
今回はおしゃれなイメージのある北欧の国、フィンランドの食生活をご紹介してきました。「ヤンソンさんの誘惑」やサンドイッチケーキは日本でも手軽に真似ができそうですね。フィンランド風シナモンロールを提供しているカフェもあるようなので、気になった方はぜひ足を運んでみてください。
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